長年にわたり、薬剤師をされていたからこそ、沸き上がった疑問。「どうして病気は減らないのだろう」。立ち上がった宇多川氏は、医療を変えるために患者側の意識を変えようと、さまざまなメディアを通して「なるべく薬を使わないで健康になる」という啓蒙活動をされています。

健康を作るのは、
薬ではなく自分自身

対談:宇多川久美子氏×中西研二

宇多川久美子(うだがわ・くみこ)●1959年千葉県生まれ。明治薬科大学卒業。薬剤師・栄養学博士(米AHCN大学)。
一般社団法人国際感食協会代表理事。NPO法人「統合医学健康増進会」常務理事。
医療の現場に身を置きながら薬漬けの治療法に疑問を感じ、「薬を使わない薬剤師」を目指す。現在は、自らの経験と栄養学・運動生理学等の知識を生かし、感じて食べる「感食」・楽しく歩く「ハッピーウオーク」を中心に、薬に頼らない健康法を多くの人々に伝えている。
主な著書に『薬を使わない薬剤師の「やめる」健康法』(光文社新書)『薬剤師は薬を飲まない』(廣済堂新書)『薬が病気をつくる』(あさ出版)『薬を使わない薬剤師の断薬セラピー 薬をやめれば、病気は治る』(WAVE出版)がある。

中西研二(なかにし・けんじ)●1948年東京生まれ。NPO法人『JOYヒーリングの会』理事長。有限会社いやしの村東京代表取締役。新聞記者、セールスマンなどさまざまな職業を遍歴の後、1993年に夢の中でヒーリングを伝授され、以来25年間で22万人を超える人々を癒し続けている。また、2004年9月にワンネスユニバーシティでワンネスディクシャという手法を学び、以来、この手法を通して、多くの人々がワンネスの体験を得る手助けをしている。2012年2月には、日本人のワンネスメディテーター6名(現在は8名)のうちの一人に選ばれ、以降ますます精力的に活動している。長年のヒーリング活動が評価され、2015年に『東久邇宮記念賞』を、同年『東久邇宮文化褒賞』を受賞。著書に『そのまんまでオッケー!』『悟りってなあに?』『あなたはわたし わたしはあなた』(共にVOICE刊)がある。

きょうだいの死、手術を通して薬剤師を目指す

中西 「薬を使わない薬剤師」と呼ばれる宇多川さんですが、薬剤師になられて、どうしてそういう啓蒙活動をされることになったのでしょうか?

宇多川 私のように、薬ありきの現代の日本の医療に疑問を感じている薬剤師はたくさんいると思います。病気で苦しんでいる人たちが健康になる手助けをしたいと思って医療の世界に入った人たちも多いですから。私も医療で命を救うことができるのは素晴らしいと思って薬剤師になりました。

私は4人兄弟の末っ子で生まれましたが、兄と姉を病気で亡くしています。すぐ上の姉も幼いころから心臓弁膜症という病気で苦しんでいました。人工弁に置換した彼女の心臓は弁が閉じるたびに「コチン、コチン」と器械の音をたてるのです。それでも生きて笑っている姉の姿に、医療は偉大だと思いました。きょうだいを亡くしたことで死は身近にあり、だからこそ生きていることの素晴らしさを痛感し、医療の道に進むことを決め、薬剤師になりました。

だから、最初の頃は「薬が効いたよ」などと声をかけてもらうことがとてもうれしかったです。

だけど、薬剤師を何十年もやっていると「なぜ病気は減らないのか」「どうして薬は増えていく一方なのか」という疑問が沸き起こってくるのです。

姉の命を救ってもらったように、誰かの健康の手助けをしたくて薬剤師になったのに、もしかして自分がしていることは逆なんじゃないかと思うようになったのです。

中西 それはどういうものだったのですか?

宇多川 いま薬の9割は生活習慣病に対して成り立っています。つまり生活習慣を正すことが根本にあるんですね。薬はあくまで一時的に悪くなった数値を抑えるだけなのです。だけど薬で数値がよくなると「治った」と、多くの人は思うのです。でも実際はただ抑えているだけなので、その間に生活習慣を変えなければ、薬を飲み続けてもさらに数値が悪化したり、別の症状が重なってきたりするのです。そしてさらに薬を増やして抑え込もうとするのです。

中西 なるほど。薬で健康になるわけではないのに、飲めば治ると思っているんですね。

宇多川 そうなんです。日常的に服用する薬は、「ただ数値を下げているだけ」という意識を持たないと、患者さんのほうも生活習慣を変えるまでに至らないんです。医師のほうもそのことを伝えることがなかなかない。よく数値が下がらなくなってくると「効きが悪くなってきたね」などと、薬にフォーカスして、原因はそこにあるような言い方をします。薬で抑えても数値が上がるということは、むしろ症状が悪化しているということなんです。

もちろん、薬は大事です。例えば出血多量で倒れているときに、「止血剤は脳血栓発症のリスクがあります」なんて言ってられませんよね。深刻な状態のときは命にかかわるので薬は必要です。

だから「薬を使わない薬剤師」といっても、薬を全否定しているわけではなく、薬はあくまで症状を一時的に抑えるもので、「健康を作るのは自分自身」ということを発信しているのです。

治療法は自分で決めるという意識

中西 確かにそうですよね。そういう意識で患者さんも使ってくれればいいけど、例えばこれから高齢化社会になってきますが、高齢者ほど無防備に服用することがけっこうありますよね。

宇多川 「先生とは長年のお付き合いだから」とかね。

こういう啓蒙活動をして実感することですが、社会的地位があったり、いわゆる「立派な大人」と思われているような人でも、こと医療に関しては医者に丸投げしている場合が多いんです。それで「こんなはずじゃなかった」と、のちのち後悔するくらいなら、お医者さんに任せきりにしないで、せめて自分の病態だけでも真剣に調べてみて、そのうえで担当の医師と相談することが大事です。医師とディスカッションしたうえで決まった治療法なら、たとえ結果がよくなかったとしても、人に決められたことよりもずっと受け止め方が違います。

中西 ただガン治療の場合だと、例えば三大治療(外科治療、抗がん剤治療、放射線治療)を拒否しても家族が納得できず、本人の意思が通らないでもめることがけっこうあるんですよね。

宇多川 多いですね。もちろん家族の意見というのも大事だけど、やはりガン治療を受けるのは患者さん自身。とても辛い治療を家族が請け負うことはできないのだから、本人の意思が一番尊重されるべきなんです。家族なら長生きしてもらいたい気持ちはわかりますが、本人の視点に立ってみると、「どれだけ生きた」よりも「どう生きたか」ということが重要ではないでしょうか。

中西 私もヒーリングをやっている関係上、ガン患者さんがたくさんやってきます。そのとき「決めるのはあなただから。あなたが自分の人生をどうしたいかということに尽きるよ」と話しています。

宇多川 そうなんです。これから医療を受けようとしている人たちが、そういう意識に変わっていけば、日本の医療が変わっていくと思っています。

「違う意見の人がいて当たり前」

中西 こういう活動をしていると、反発も多いでしょう。

宇多川 私の本のタイトルが『薬が病気を作る』(あさ出版)などインパクトの強いものが多いから、「宇多川さんは薬否定派なんですよね」と、医療を否定する人間と最初から思われてしまって。だけど伝えたいことは「健康を作っているのは自分自身。そのことを薬が忘れさせてしまう」ということなんです。

そのことが伝わらないで、批判を受けることも多いです。ひどいことを言われて泣いていた時期もありました。そんなとき、息子から「お母さんも受け入れられないことってあるよね。お母さんが言っていることをみんなが正しいと思っているわけじゃないんだよ。そういう人がいるのが当たり前だから」と、声を掛けられたのです。その言葉で気持ちがV字回復できました。それからはそこまで落ち込まなくなって、自分の活動の幅が広がったのです。ちょうど本を執筆していた時期でもあったので、「そんないい加減な気持ちでやっているの? 泣いている暇があったら本でも書いたら」と息子に押されたことは、いまでも支えになっていますね。

中西 それはいい話ですね。いままでの流れに一石を投じるのは、大変勇気がいることです。息子さんが言う「違う意見の人がいて当たり前」というのは、活動を通して支えになりますね。

こういう活動はとても大事だと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。

(合掌)

「いやしの村だより」2018年11月号掲載