世の中でホンモノの人物にそうそう出会えることはないと思うが、土居先生のまとう空気はさながらそこに戦国時代の武士がいるようでした。支援が必要な子どもたちに私財を捧げるなど、強さと愛が一つだということがわかる生き方をされる名人のお話を聞いてきました!

強さを極めた先の慈愛に向かって

土居清良氏&中西研二

土居清良(どい・きよよし)●6歳から住職の下で古武道を学ぶ。その後、主な4流派を体得。武士道の精神で会社を設立し成功するが、人のために会社を3度も手放す。さらに、恵まれない子どもを支援したいとの思いで、これまで数億円になる私財を子どもたちのために捧げ、無一文にもなる。
臨死体験をすること8回。その中で、6メートルほどの高さから墜落し、腰椎椎間板を全て損傷。下半身不随となった体を、培った武士道の精神で奇跡的に歩けるようにまでなる。
世界中の子どもたちや若者たちに夢を持たせること、人種、国境を超えた地球単位の正義と矜持(きょうじ)を伝えることを天命として「無限塾」を設立。そして、『実践型古武道』と『真の武士道の心』を伝えるため「風武流」を立ち上げる。
無限塾:https://www.mugenjuku-fuburyu.com/

中西研二(なかにし・けんじ)●NPO法人JOYヒーリングの会理事長。新聞記者、セールスマンなどさまざまな職業を遍歴後、1993年にヒーリング活動を開始。「呼ばれたら全国どこへでも行く」をモットーに行脚を続け、日本全国の各会場で数々の奇跡を起こしています。そして、直接または遠隔によるヒーリングやセミナーを受けた方から多数の感謝の声をいただき、27年間で22万人を超える人々を癒し続けてきました。
ハワイのホ・オポノポノで有名なヒューレン博士が来日された際には、博士のほうから直接会いたいと言われた唯一の日本人が、中西研二だったそうです。2004年からは、ワンネスユニバーシティのコースに招かれ、さらにO&Oアカデミーのコースにも招待されました。その折に伝授された“奇跡の目”で見つめるだけで「奇跡の水」ができ、意図を込めることで「奇跡の塩」ができ、そこからもたくさんの奇跡が起きています。現在は、日本式ヒーリング「愛和道」の完成を目指して、昼夜を問わず活動しています。
著書に『そのまんまでオッケー!』『悟りってなぁに?』『あなたは、わたし。わたしは、あなた。』(いずれもVOICE刊)対談集『なんにも、ない。』『たちどまって自分を癒す』(ともにヒカルランド刊)があります。

「持つ」を知るまで一年間

中西 土居先生はずっと古武道の世界にいらっしゃいますが、最初に剣に触れたのはいくつくらいでしたか?

土居 ほかのこともやっていますが、武道はずっとやっていますね。

最初は、家に爺やと呼ばれる柳剛(りゅうこう)流の達人がいまして、顔や体にたくさん刀傷があるんです。今思えば真剣で立ち合い稽古してきた方だったんでしょうね。毎朝、刀を振っているので興味津々で見ていたら「やるか?」と言われて、それで教わりました。

それが6歳のときで、それから2年ほど教わっていたんですが、両親が離婚し、母方の田舎に引っ越したんです。そうしたら父が「そっちに名人がいるからそこで習え」と、禅寺のお坊さんを紹介されました。

中西 最初の先生も時代劇に出てきそうな方ですね。

土居 最初、師匠に言われたのは桜の木の枝を渡され「これを刀だと思って、そこら辺の草や木を相手に切ってみろ」と。あとは何も教えてもらえず、ただその通りにやっていました。一年ほどたって「今度は俺に向かって振ってみろ」と言われ、振った様子を見て「よし、次を教える」と。そのとき師匠に言われたのが「それが、持つ、ということだ」。

一年間かけて持つことを覚えていたんですね。そうすることでどんなときでも、刀を持つことができるし、腕と刀が一体になるのだそうです。それから技を教えてもらえましたが、最初にきちんと基礎ができたので、その後は早かったですね。それから朝夕千回振っていました。

中西 はぁ、すごい話ですね。やはり、基礎になる土台作りが大切なんですね。王貞治さんもバットの素振りをひたすらしていたので有名ですが。

土居 刀で切るとき、「刃筋(はすじ)が立つ」という言い方があります。少しでも刃が傾くと骨に当たってそれ以上切れないのです。でも刃筋が立っていると、肩から入れて、そのままあばらまで切り裂き、だいたい真っ二つです。王さんのスイングはきれいに刃筋が立っていました。畑は違えど、あれくらいになると同じところにたどり着くのだなと思いました。

中西 そうですね。私の先祖も剣術の道にいたようですが、曽祖父になると茶の湯生け花の先生になるんですよ。多分、明治になってこれからの時代は剣ではないなと思い、チェンジしたのではないでしょうか。

土居 確かに今の時代、実戦は必要なくなりました。今、大事なことは、強くなることで心を学ぶことだと思います。

中西 心の向き合い方は、今、まさに必要なことでしょうね。

土居 とにかく古武道を習う者には「強くなれ」というのを繰り返しています。なぜかと言うと、相手より強いという自信があったら、その人を殺さずに済むのです。ちょっとかすり傷を負わせて、戦闘意欲をなくせばいいのだから。戦う相手を殺さないために強くなるという本当の意味を実感できると、自然と人に対する優しさや慈しみが沸き起こるようになります。すべてはそこに通じているのです。そう言うと「武道なのに?」と疑問に思うようですが。

中西 ただ人より強くなりたいと思っているうちは、まだまだということですね。

出身が高知ということですが、坂本竜馬の剣の強さはどうだったんでしょうね。

稽古中の土居先生はホンモノの武士です!

土居 最期、部屋で暗殺されましたよね。鴨居に刀が刺さった跡があったそうですが、部屋で斬り合う時は振り上げてはいけないんです。狭いから、腰の下のほうから、こう抜いて……。

中西 わっ。なんだかその現場にいるような、気迫を感じてゾクッとしました。

土居 そうですか(笑)。だから鴨居に刺さるような斬り合いをするようなら、あまり強くないと思います。

中西 実戦は時代劇と全然違うんですね。

土居 皆さんが言っている武道は、殺陣とか演舞など、現代にマッチした美しい形になっていますね。見た目が派手できれいなんですけど、本当の斬り合いでは負けます。私だったら、抜こうとしている間に、相手の手を切り落としているでしょうね。私の古武道は昔のままでやっています。なぜなら、刀の下に身を置くことで、より精神性が研ぎ澄まされるからです。

ゴルフも剣の道も体の軸が大事

中西 それでは、そういう心のことを武道を通して、若い人たちに伝えているんですね。

土居 弟子をとって教えることをしているのが2年前からなんです。今まで200人近く弟子にしてくれと話があったけど、みんな断っていました。武道は自分にとても身近で、くっつきすぎちゃっていたので、武道でどうこうしていこうなんて考えがなかったんですよ。

教えるといっても、武道ではなくてゴルフをずっと教えていました。

中西 え?! それはまたずいぶん畑違いのように思えますが。

土居 高校生と大学生のコーチをずっとしていました。どちらもゴルフの名門校です。

中西 先生のゴルフ歴は?

土居 私がゴルフを始めたのは38歳のときです。

中西 びっくりすることが多いのですが、ずいぶん遅くに始められたんですね。

土居 ゴルフが性に合っていたのか、二年後にプレジデントカップのチャンピオンを獲りました。

中西 すごい!

土居 それでプロテストを受けてみないかと言われたのですが、年齢制限でギリギリ受けられなかったので、じゃあシニアを受けるかと思っていた矢先、後遺症が残る事故に遭遇し、それで自身のゴルフは諦めて育成のほうをしているわけです。

中西 それもすごい。それで、ゴルフと古武道って共通することはあるんですか?

土居 あります。まずメンタルですね。古武道で培われたメンタルは、どのスポーツにも生かされます。それから体の軸。古武道ではそれを正中線と言うのですが、その線がぶれないことがゴルフにも非常に大事なことです。軸がぶれている子はうまくならないです。

中西 結局、軸がしっかりしているかどうかがポイントになるんですね。

嫌になったらそこでおしまい

中西 以前、合気道の植芝盛平さんの最後のお弟子さんである廣澤先生にお会いしたことがあります。もう80歳を超えたご高齢ではあるのですが、ふわぁっとした空気でどう見ても強くないんです。でもみんな吹っ飛んでっちゃう。

何の構えもなくそうなるので、「どうして構えないのですか?」と聞いたら「構えていたらその方向にしか意識がいかない。構えなければ360度意識が向き、その自然体が最高なんだ」とおっしゃっていましたね。

土居 名人になるとそうなりますね。剣の道でも達人の域に達すると、もう気で相手を圧するところまでいきます。それをさらに超えると「この人、本当に強いのかな」というところまでいきます。そこまでなりたいですね。

中西 どの道もそうでしょうが、剣の道は長いんでしょうね。

土居 終わりがありませんね。行き詰まって、行き詰まって、少し進み、ポンと上に上がる。その繰り返しですよ。行き詰まったとき、そこで嫌になったらそれでおしまいです。

中西 いやぁ、今日はすごい話を聞かせていただきました。こういうご指導を通して、日本の精神性を伝えていくのは、本当に価値のあることですね。

土居 今、インスタグラムで技の様子をあげているんですけど、面白いことに日本よりも海外からの反応のほうが大きいんです。「道場ができたら一年くらい泊まり込みで習いたい」というメッセージもきて。その方は、日本人の先生に習っているのだけど、やり方が全然違うから教わりたいと熱心なんです。

中西 ぜひ、日本の精神性を、日本に、そして世界に伝えていってもらいたいです。

今日はお忙しいところ、ありがとうございました。

(合掌)

「いやしの村だより」2020年10月号掲載