会員さんで山梨県都留市在住の小林浩太朗さんは、0歳から重度の脳性まひになり生活には全介助が必要です。そんな彼が指導員の佐藤袈裟江さんの支えのもと、絵画を通して自身の気持ちを表現するようになりました。その作品の出来映えが話題を呼び、新聞の取材を受けたり、同市の福祉施設で自作のカレンダーを展示販売したりするように。特に浩太朗さんが通う支援学校から見える富士山の絵は、人の心をとらえる作品です。
三人四脚で描く心の世界…
「たくさんの人の心が
安らいでくれるとうれしい」
スペシャルインタビュー:
中西研二×小林浩太朗さん
小林圭子さん(浩太朗さんの母)
佐藤袈裟江さん(天使のおもちゃ図書館はばたき指導員)
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中西研二●1948年東京生まれ。NPO法人『JOYヒーリングの会』理事長。有限会社いやしの村東京代表取締役。ヒーラー。ワンネストレーナー。
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小林浩太朗(こばやし・こうたろう)●1997年生まれ。0歳のときに重度の脳性まひになる。夢は小説家になることと語る16歳の少年。
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小林圭子(こばやし・けいこ)●1958年生まれ。浩太朗さんが生まれてすぐに重度の脳性まひと認定され、それから「毎日がジェットコースター」の生活へ。
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佐藤袈裟江(さとう・けさえ)●1938年生まれ。高校の教師を経験後、NPO法人でボランティアの介護士へ。浩太朗さんとの関係は10年以上になる。
表現したい色が出るまで妥協しない
中西 浩太朗さんの絵が話題になっていますが、お母さんと指導員の佐藤先生の協力があるわけですね。お二人はいつからのお付き合いですか?
小林 浩太朗が私のおなかの中にいた頃からです。いま浩太朗が16歳なので、もう長いお付き合いになります。
中西 じゃあ浩太朗さんにとって佐藤先生は、お母さんの次くらいにかけがえのない存在ですね。絵を描くようになったのはいつ頃からですか?
小林 こういうしっかりした絵を描くようになったのは去年の春からです。
それまでは、造形教室で指で描くようなことはしていました。絵はもともと好きなようです。
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写真1 浩太朗さんが初めて描いた桜の木
佐藤 これ(写真1)が最初に描いた絵です。桜を描きたいというので、桜を観に行きました。山に桜の木がたくさんあったので桜の山全体を描くのかと思ったら、彼は1本だけを描いたのです。その感性に驚きました。本当に素晴らしいです。浩太朗くんに教わることがたくさんあります。
中西 コミュニケーションはどうやってとっているのですか?
佐藤 「いいえ」や「はい」は手を握ったり、さすったり、あるいはまばたきをすることで表現しています。コミュニケーションは不自由なくできます。
中西 絵を描くときはどうするのですか?
佐藤 刷毛(はけ)を持った浩太朗くんの手を少し支えてあげれば、あとは自分で筆を運び描きます。私たちの感覚ではハッとするようなこともありますけど、最終的にはこのようなしっかりした絵が仕上がります。観察がすごく鋭いですね。ひまわりの真ん中の部分を描くときも「浩ちゃん、こんな色だったね」と言いながら、茶色の絵の具を使おうとすると、納得をしないで緑色を要求するのです。自分の納得する色が出るまで描きません。
ですから画用紙を2枚用意して、1枚は色の見本に使います。もう1枚に「この色でいい? 何色を足す? 白? 青?」と言った具合に進めます。色が決まると、あとは1時間ぐらいで一気に仕上げます。
絵を通して気持ちを表現できるように…
中西 この富士山の絵(写真2)も細かく観察して描かれていますね。
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写真2 支援学校でいつも駐車する場所で見かける富士山を描いた作品
小林 私が毎日送り迎えしている支援学校の駐車場で、車の窓から見える風景です。この風景をいつもじっと観ていたのですね。
中西 じゃあ、浩太朗さんには描きたい風景がたくさんあるのですね。
佐藤 そうですね。この絵(写真3)は午前中に大きなプールに入ったときの絵です。午後が造形教室で、「今日はプールに入ったときのうれしかった気持ちを描きたい」といってこれを描いたのです。赤い部分がうれしい気持ちだそうです。
写真3 プールに入ったときに描いた作品。赤い色は「うれしかった気持ち」
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写真3 プールに入ったときに描いた作品。赤い色は「うれしかった気持ち」
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写真4 右上の赤は「ずっと続く燃える気持ち」。左側の赤は「途切れることのある燃える気持ち」
小林 これ(写真4)も自分の気持ちを表しているんですよ。赤は燃える気持ちだそうです。こっちはたまに途切れる燃える気持ち。こっちの赤は、ずっと続く燃える気持ちなんだそうです。こうやって自分の気持ちを外に出せるようになったことを、すごく幸せに感じます。
この富士山(写真5)は、朝日新聞社の記者が取材にきたときに15分くらいで描いたものです。
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写真5 新聞社の取材中に15分で仕上がった富士山
全託することを教わる
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ひまわりの中央に緑を使う。その観察眼に驚く
中西 ここまで育てられて、どのようなことが思い出されますか?
小林 やはりコミュニケーションがとれないときが一番大変でした。泣いているのにどうして泣いているのかわからなくて、オロオロしました。
3歳の時に東京の医療養育センターに相談に行ったら「この子は反応していますよ」と言われてびっくりしました。それから、手を上げたりすることでコミュニケーションがとれるようになったのです。それと、やはり脳性まひで奇跡の詩人と言われている日木流奈(ひきるな)くんの本との出会いが目から鱗(うろこ)でした。脳障害児にも未来はあるんだと思えるようになったのです。
それまでは、こんなになんにもできなくて、生まれてきた意味があるのだろうかと、悲しいやら悔しいやら、いろいろ悲観的な気持ちでした。今は、親子で生きる意味を見つけていこうという気持ちです。
でも、毎日がジェットコースターみたいで、いいときが続くと思えば突然落ちたり…。今回も対談のお約束の日に伺えるか直前まで心配でした。
でも、最近はこの子のおかげで受け入れるということ、全託するということを練習させてもらっているんだと思うようになりました。素敵な絵を見せてくれるという、16年前には思いもしなかったプレゼントをもらっているような気がしています。
先入観なく受け止めてくれる先生に感謝
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都留市保健福祉センターに展示販売されている手作りカレンダー
中西 お母さんも素晴らしい!
小林 それと、このように浩太朗が絵を描くことへ意欲を見せてくれたり、コミュニケーションをとって意思の交流ができるようになったのも、袈裟江先生が先入観なく浩太朗を丸ごと受け止めようと向き合ってくださっているからだと思います。誰にでもできることではありません。本当に感謝しています。
中西 本当に素晴らしい絵ですね。驚きました。これから大きな絵も描きたくなるでしょうから佐藤先生は大変でしょうが、でも楽しみですね。浩太朗さんの絵を見た人は心が和むし、安らぎますからね。同じような障害を持った子どもたちの励みにもなりますし…。今日は素晴らしい絵を見せていただき、ありがとうございました。
(合掌)