「こんなところに通いたい!」と、ケビンに言わしめた金沢市内にある「太陽丘こども園」。新国立競技場を設計された建築家・隈研吾氏による木造の建物も素晴らしい。氏の創作意欲を駆り立てた、日本海を望む最高の立地。そして元・野生児の山下真園長による「自分が楽しいことを追求してきた」という驚くべき自然保育の内容。そのすべてが最高の空間を生み出していました。

大自然の叡智が先生!
日本の教育がここにある

対談:山下真氏×中西研二

山下真(やました・しん)●社会福祉法人中央福祉会 キッズアカデミー太陽丘こども園園長。

中西研二(なかにし・けんじ)●1948年東京生まれ。NPO法人『JOYヒーリングの会』理事長。有限会社いやしの村東京代表取締役。新聞記者、セールスマンなどさまざまな職業を遍歴の後、1993年に夢の中でヒーリングを伝授され、以来25年間で22万人を超える人々を癒し続けている。また、2004年9月にワンネスユニバーシティでワンネスディクシャという手法を学び、以来、この手法を通して、多くの人々がワンネスの体験を得る手助けをしている。2012年2月には、日本人のワンネスメディテーター6名(現在は8名)のうちの一人に選ばれ、以降ますます精力的に活動している。長年のヒーリング活動が評価され、2015年に『東久邇宮記念賞』を、同年『東久邇宮文化褒賞』を受賞。著書に『そのまんまでオッケー!』『悟りってなあに?』『あなたはわたし わたしはあなた』(共にVOICE刊)がある。

豊かな自然に溶け込む園舎

中西 ここの保育園に入ってまず驚いたのが広さ! 一階しかなくて、段差をつけず、すべてスロープでつなげているからすごく広く感じますね。

山下 この建物は建築家の隈研吾氏に設計していただきました。世界的に有名な方なので、よく海外から視察にも来られます。この豊かな自然と眼下に見下ろす街並み、日本海まで見渡せる眺望を初めて見たとき隈氏の中に、周囲の自然と無理なく溶け込む施設の構想が広がったそうです。

中西 わかります。この素晴らしいロケーションがあってこその建物。子どもがいたらこんなところに通わせたいと思うし、自分自身も子どもに戻って通いたくなっちゃうよ!

山下 子どもがワクワクするような設計にしてくれたのです。いたるところに穴があいているので好奇心をくすぐり、スロープでつなげてあるので、走りたくなるような工夫がされているんですね。

中西 じゃあ「廊下は走らない」というルールはないわけですね。

山下 せいぜい「気を付けて走りなさい」と言うくらいです。そういう意味ではほかの園よりも怪我は多いかもしれません。裸足で外出するので足の裏に棘(とげ)が刺さったり、ミツバチに刺されたりとか。

中西 でもそれが普通ですよね。

ほかの保育園と違うところは、ほかにどんなところがありますか?

山下 自然教育を前面に押し出していて、我々が子どもに教えるというより、自然の中に連れて行って、そこで子どもたちが自然から学ぶということを主眼に行っています。その中で、リーダーシップや協調性を学び、自分の言葉で発言できるように育ってほしいのです。

裏山もあわせると、どれくらいの広さになるかわからない広大な敷地

中西 先生はあくまで見守り役なんですね。そもそも山下さん自身が野生児だったと聞いていますが。

山下 そうですね(笑)。自然保育はうちのカラーになっていますが、最初からそれを目指していたわけではなく、私が「こんなことをしたら面白い」ということを追及していったらこんな感じになってきたのです。

中西 じゃあ、子どもの頃はやはり山の中で遊んでいたんですね。

山下 山でずっと遊んでいたので、山菜の種類などは詳しいですよ。その影響で、うちの園児たちの特徴に山菜、毒草に詳しくなるというのがあるんです。「この葉っぱは食べられるね」「これは食べたら死ぬね」などと園児が話しているんですよ。

中西 すごい! 一番の教育ですよ。食べられる山菜を、園児に教えてもらわないといけないな。

山下 「生きる力を育む」というのが、保育園の保育課程にあるのですが、うちの保育園はそこが一番特化しているかもしれませんね。

部屋の随所に穴があいていて、冒険心をくすぐる

大自然から学ぶ

中西 いま帰りの光景を見ていましたが、園児がみんな仲いいですね。

山下 縦割りで異年齢の交流を心がけているので、クラスが違うからまったく知らないということはないですね。

中西 金沢市内には、こういう保育園がほかにもあるのですか?

山下 自然を取り入れる園は、うち以外にもあります。ただ規模はもっと小さくなるし、自然と向き合うということは、危険と隣り合わせにもなることだからなかなか踏み切れないところもあるのでしょう。

中西 どのような体験があるのですか?

山下 例えば登山がありますが、そのとき子どもを5人ほどのグループに分けて、目指すところだけ伝え、あとは入り口も好きなところから自由に行くのです。

中西 すごいね! どれくらいの山なのですか?

山下 子どもの足で1時間くらいです。職員は、一番後ろで見守っている程度です。私は先に行って、危険な箇所がないか調べておいて、何か危ないものを発見したら笛を吹いて誘導するようにしています。

冬になると雪山になって、子どもたちには少し過酷かもしれませんが、目標は、ちょっと上に設定していたほうが達成感もありますので。

夜の保育園もまた素晴らしい

中西 自然というのは黙って見ていればわかるところがあるんですよね。そこにはやはり叡智が働いているから。そういうのを子どもほどよくわかるんです。

例えば私も子どもの頃、山で遭難しかかったことがありました。そのとき木の片側だけに苔が生えているのを発見したのです。そこから太陽の昇る方向などがわかり、出てきたことがありました。

コンクリートジャングルじゃわからない自然の営みを体で覚えていくんですね。日常的に大自然と触れあっていれば人類は平和でいられると思います。

子どもとお年寄りが交流する場

中西 最近、子どもとお年寄りが同居している施設が少しずつ増えてきましたが、ここではそういう交流はあるのですか?

山下 すぐそばに、うちの法人の介護施設があるので、そことの交流は定期的にしています。例えば一緒にお餅つきをしたり。

遊びの相手は自然!なんでもおもちゃに変身!

中西 この園は、私が子どもの頃から描いていた理想に、限りなく近い。

片側に老人ホーム。片側に子どもたちを集めた施設があったら素晴らしいなと思っていました。

いわゆる老人の知恵と、子どもの持つ若いエネルギー。両方必要だし、それが自然な形で交流している場所が夢だったのです。

それからずっと、そういうことを追いかけてきて、いやしの村ができました。それをもっともっと発展させるために、ここの考え方や作り方はとても参考になりますね。

今日はお忙しいところ、どうもありがとうございました。

(合掌)

「いやしの村だより」2019年6月号掲載