ニューロフィードバック療法をご存じでしょうか? NASAの研究から始まったこの療法は、世界中で治らないと思われてきた多くの精神疾患を改善してきました。日本ではあまり知られていないこの療法を、正しく広めようと活動されている田崎先生にお話を伺いました。

精神医学界のパラダイムシフトへ

田崎美弥子氏&中西研二

田崎美弥子(たさき・みやこ)●1982年に慶應義塾大学文学部心理学科卒業。1982年9月まで財団法人EDA(ソニー株式会社井深研究室)に勤務後、1年間渡英。1983年より、北米カンサス州ローレンスにあるカンサス州立大学の行動分析学会会長を何期も務め、カンサス州立大学名誉教授であったベアー博士(Donald M. Bear)を担当教授として、人間発達学部修士課程に入学し、同博士課程を1989年に修了後、児童発達心理学博士でPh.D.を取得。その直後に日本に帰国し、1993年3月まで日本IBM大和研究所ソフトウエア開発部門においてユーザビリティテスト開発のためのエンジニアとして勤務。1990年より、在籍中に合格していた外務省Young Professional Officerとして、世界保健機関精神保健部(スイス)にScientistとして勤務。1992年9月に帰国後、日本IBM人間工学科に復職。1993年4月から東京理科大学理学部二部嘱託専任講師として勤務し、1998年から2008年3月まで東京理科大学大学院修士課程理数教育専攻・および理学部二部教養准教授として勤務。2009年4月より現職である東邦大学医学部医学科心理学研究室の教授として勤務。

中西研二(なかにし・けんじ)●NPO法人JOYヒーリングの会理事長。新聞記者、セールスマンなどさまざまな職業を遍歴後、1993年にヒーリング活動を開始。「呼ばれたら全国どこへでも行く」をモットーに行脚を続け、日本全国の各会場で数々の奇跡を起こしています。そして、直接または遠隔によるヒーリングやセミナーを受けた方から多数の感謝の声をいただき、27年間で22万人を超える人々を癒し続けてきました。
ハワイのホ・オポノポノで有名なヒューレン博士が来日された際には、博士のほうから直接会いたいと言われた唯一の日本人が、中西研二だったそうです。2004年からは、ワンネスユニバーシティのコースに招かれ、さらにO&Oアカデミーのコースにも招待されました。その折に伝授された“奇跡の目”で見つめるだけで「奇跡の水」ができ、意図を込めることで「奇跡の塩」ができ、そこからもたくさんの奇跡が起きています。現在は、日本式ヒーリング「愛和道」の完成を目指して、昼夜を問わず活動しています。
著書に『そのまんまでオッケー!』『悟りってなぁに?』『あなたは、わたし。わたしは、あなた。』(いずれもVOICE刊)対談集『なんにも、ない。』(ヒカルランド刊)があります。

NASAの研究から始まった

中西 田崎先生がされているニューロフィードバック療法というのを知らなかったのですが、調べてみると精神疾患を抱えている人にとって、とても朗報であると感じました。ニューロフィードバック療法に取り組もうと思われたいきさつは、どういうものだったのですか?

田崎 私は応用行動分析学という分野の専門でして、それは今まで治らないと言われていた精神疾患にもある程度アプローチできるものだったのです。しかし、それだけでは私の求めているものに限界がありました。

諦めるしかない状況をなんとかできないかと模索していた時期に、たまたま本屋でニューロフィードバック療法について書かれている本に出会ったのです。本当にその本が光って見えて、誘われるように手を取って読んでみるとニューロフィードバック療法によって「自閉症が回復した」と書かれてありました。これはすごいことだなと。

日本ではあまり普及していないのですが、アメリカではもう40年の歴史があります。当時、それを本格的に学びたかったら海外のセミナーに参加するしかありませんでした。

中西 なるほど。それで海外でじっくり学んでこられたわけですね。この療法の始まりは、どのようなものなのですか?

田崎 NASAの研究から始まったのです。有人飛行で燃料が船内に漏れると、てんかん発作のようなことが起きたり、意識障害を起こして死ぬことがあることがわかっていたので、そのことを究明するためにUCLAの教授が呼ばれました。

その教授は安定した睡眠の研究をされていて、猫を使って脳に特定の周波数を出す訓練をしていました。NASAの研究はその訓練した猫と普通の猫を使って比較しました。

すると訓練していた猫は免疫耐性がすごくあって、何もしていない猫のようにてんかん発作や死亡したりすることがなかったのです。

そこから、脳から出される周波数によっては、てんかん発作が抑えられることがわかり、その研究が進んでいったというわけです。今では不安神経症やさまざまな精神疾患の領域で臨床研究され、かなり広く使われるようになっています。

中西 日本ではあまり知られていませんが、アメリカではけっこう一般的なのですか?

田崎 アメリカでは保険適用になっている州が数多くあります。また、ドイツでは国家資格になっています。

中西 世界ではそんなに認知されているのですね。実際にどういうふうに治療していくのですか?

田崎 頭に電極をつけて、脳波を調べるところから始めます。それで適切な脳波の基準からどれだけ乖離(かいり)しているかを測定し、うまく働いていない部位を特定します。

例えば発達障害の人は、右脳の側頭葉がうまく機能していないことが多いんですね。右脳の側頭葉には顔認知を知覚する部位があって、そこがうまく機能していないと顔の表情から相手がどんな感情でいるのか理解できないのです。ですから、そこが働くようなプログラムを組み、脳が自律的に適切な脳波を出すようなトレーニングをすると、発言自体が変わっていくようになります。

具体的には、クライアントさんは頭に電極を貼ったままテレビ画面を見ているだけです。画面にはキャラクターが出てきて、望ましい脳波が出たらキャラクターが動いたり音が鳴ったりします。その時の脳が反応するフィードバックを受けて、脳が自律的に学んでいくのです。

セラピストはその間、パソコンに表示される脳波計を確認しながら必要な調整を行うのですが、それには非常に高度な専門知識が必要になります。クライアントさん自身はそのことに気づかず、ただ画面の変化を見ているだけです。

正しい知識を持ったセラピストを育てるために

中西 セラピスト側が非常に高度な作業をするわけですが、クライアント側はほとんど負担がないのですね。それで発達障害、自閉症などさまざまな脳の疾患が改善されるのですが、ほかにはどんな効果がありますか?

田崎 PTSD(心的外傷後ストレス障害)にも有効ですし、認知症の記憶障害改善も効果があります。

悪いものを良くしていくという効果の一方、良い状態をさらに良くすることにも使われています。アスリートの方などがそれでピークパフォーマンスを上げることをされていますし、学力が上がるというのは皆さんよく言われます。

中西 すごいね! そんなにいいものなのに、日本であまり認知されていないというのが残念ですね。ニューロフィードバック療法のセラピストになるのはそんなにハードルが高いものなのですか?

田崎 現状はなかなかハードルが高いと思います。国際的な資格の認証団体があるのですが、日本でその資格を持っているのは私だけです。試験の内容も英語で、日本でそれが受けられるようになったのも昨年からなのです。それまでは海外に行かないと受けられませんでした。この療法は治療の手順を間違えると大変なことになるので、正しい知識を身に付けたセラピストを増やすために、6年前に私が協会を立ち上げました。これから日本人にも正しい知識を身に付け、日本でも受けやすいように普及していきたいと思っています。

中西 脳を扱うから簡単にできては困るけど、もっと普及してほしいですよね。協会の発展を応援します。

田崎 けっこう誤った考えを持ったセラピストがいるのですね。アルファ波がただ増えればいいとか。

中西 それは違いますね。

田崎 そうなのです。脳波には良いも悪いもなくて、必要な状況で最適な脳波が出ることが重要なのです。脳がそれを自律的に覚える訓練をすることがニューロフィードバック療法なのですが、その人にとって最適な脳波というものがわからず治療してかえってひどくしてしまった人が、私のところにやってこられます。そういうことがあるので、やはりしっかり訓練されたセラピストを増やしていくことが課題です。

人間の体は全体で一つ

中西 いままでのお話を伺っていると、脳のさまざまな疾患や睡眠障害、認知症などストレスが多い現代社会に光明が差すような内容ですね。

田崎 いま精神医学の分野でもパラダイムシフトが起きていて、いままでのように治すことはできないから薬でどうにか抑えるという方向とは違った方面に進みつつあります。

一つは脳腸相関というもので、腸が荒れていて腸管漏れ症候群が起きると、本来ならばブロックされる腸内細菌が脳内に入り、それが炎症を起こしてさまざまな精神疾患の原因になっているというものです。代表的なのがグルテンによる炎症です。だから炎症を起こす物質を体内に入れないようにするのと同時に、腸内環境を改善することが大切なのです。

それからもう一つは、コネクトーム説というもので、ニューロンのネットワーク回路の不調が原因で起きる精神疾患です。その回路を整えることで改善されるもので、ニューロフィードバック療法はコネクトーム説の方々に非常に有効です。

結局、人間の体は脳だけでもなく、体だけでもなく全体で一つなのですね。だから、腸による脳への炎症が見られたらまず腸内環境を整え、それから脳の回路を整えていけば、基本的にかなりの問題が解決されると思っています。

中西 田崎先生のセラピールームは、実はこのいやしの村東京事務所から歩いて1分のところにあるのですよね。会員さんにも行きやすいところだと思うので、気になる方はぜひ受けてもらいたいです。

今日は、お忙しいところありがとうございました。

(合掌)

「いやしの村だより」2020年5月号掲載