いやしの村の古株会員でもある林悦子さんは、長年エコビレッジの研究をされてきました。時代が大きく変わろうとしているいま、林さんの研究がクローズアップされてきています。今回は、コミュニティの抱える問題点や改善点などについてお話を伺いました。
人と人が自然と支え合う
社会に向けて
対談:林 悦子さん×中西研二
林悦子(はやし・えつこ)●工学博士。聖隷クリストファー大学リハビリテーション学部 非常勤講師。日本エコビレッジ推進プロジェクト(JEPP)、エコビレッジ・デザイン・エデュケーション(EDE)、ホリステイック・ライフスタイル・ネットワーク、PIESSネットワーク。高齢者、障害者の生活環境を研究する傍ら、国内外のエコビレッジやコミュニティを訪問し、持続可能なコミュニテイ、ホリステイックな暮らしの推進・教育・研究活動に関わる。「精神性を基盤としたコミュニテイ研究会」を開催し、今年5月から「持続可能な社会づくりカレッジ~コミュニティづくりは持続可能な人間関係から」をアズワンコミュニテイ(三重県鈴鹿)で開催。一人ひとりが内なる本質とつながり、人と自然、宇宙が調和した持続可能なコミュニテイと世界を探求している。
中西研二(なかにし・けんじ)●1948年東京生まれ。NPO法人『JOYヒーリングの会』理事長。有限会社いやしの村東京代表取締役。ヒーラー。ワンネスメディテーター。新聞記者、セールスマンなどさまざまな職業を遍歴の後、1993年に夢の中でヒーリングを伝授され、以来20年間で20万人を超える人々を癒し続けている。また、2004年9月にワンネスユニバーシティでワンネスディクシャという手法を学び、以来、この手法を通して、多くの人々がワンネスの体験を得る手助けをしている。2012年2月には、日本人のワンネスメディテーター6名(現在は7名)のうちの一人に選ばれ、以降ますます精力的に活動している。著書に『そのまんまでオッケー!』『悟りってなあに?』『あなたはわたし わたしはあなた』(共にVOICE刊)がある。
「つながり」が「縛り」となる問題
中西 エコビレッジの研究と推進活動を始められてもう長いそうですが、始めるきっかけは何だったのですか?
林 大学で高齢者や障害者の生活環境の研究をしているなかで、パーマカルチャーという自然と共存した持続可能な暮らしをデザインする考え方があるを知って、パーマカルチャーやエコビレッジを見に行くツアーに参加したのがきっかけです。
場所はオーストラリアでしたが、とてもカルチャーショックを受けました。畑を耕し、自給自足している中に、野生のワラビーやカンガルーが共存している様子は、本当に素晴らしかったのです。
それからエコビレッジ・デザインのガイドブックの翻訳や教育プログラムに関わり、国内外のいろいろなエコビレッジを訪ね回って報告会や研究会を催したりと、今は日本にも持続可能なコミュニテイを広めていく活動をしています。
最近では日本でもエコビレッジに対する理解が少しずつ浸透してきましたが、まだまだ一般にはあまり理解されていませんね。
中西 日本でも古くからエコビレッジに相当する自給自足の共同体が存在してきましたが、長い年月の中、最初の理念が形骸化されて行き詰まってきている気がします。そういう状況を見てきて、もっと個人も集団もが尊重しあい、なおかつ地域から隔絶せずに打ち解けられるコミュニティは生まれないものかとずっと思っていました。
今までさまざまな共同体を見てきてその辺りはどうお考えですか?
林 ケビンがおっしゃるように、コミュニティの多くが失敗するのは、最初は「一人ひとりの豊かな暮らしの実現」といった高い志を持っていたのに、価値観が衝突し、いつの間にかそれが置き去りになってしまうからです。コミュニティづくりに一番大事なのが「共通の価値観」があることといわれています。英語でグルー(glue)と呼び、糊とか接着するという意味で、共通する価値観でつながっていることをいいます。だけどその「つながり」が次第に「縛り」になって、異を唱える人の排除が始まったり、風通しが悪くなり、コミュニティの崩壊に向かうのです。
かといって人とのつながりがないと持続可能な自給自足の生活は生まれないというところが、難しいところです。そういう失敗したコミュニティにいた人たちが集まって、どうして失敗したかを研究するために始めた研究所があり、そこから生まれたコミュニティが鈴鹿にあります。
中西 それは面白いね。どういう特徴がありますか?
林 私も初めて「アズワンコミュニティ」に行ったときに驚いたのですが、そこには加入のための条件がないのです。普通は共同体なのでメンバーになるための条件があるのですが、そこは条件も何もないので、誰でも移り住むことができるのです。さらに、普通はあるはずの、全体で意思決定する機関もありません。だけど何かあるときは生活全般にわたって何でも相談できるオフィスや支え合うお店、街中には畑もあって、近くにある里山では伝統的な炭焼き小屋を建てて、地域の人との交流も盛んです。
コミュニティとしての枠は非常にゆるいのですが、不思議とうまくいっているのです。
社会を形成するうえではコミュニテイの枠がないと成り立たないと思っていました。しかし、アズワンコミュニテイに触れてみて、コミュニティという枠を作るとそれが壁や縛りになってしまい、コミュニテイが崩壊する根源になっていることに気づかされました。
個人、個人に「人」を大事にする意識が育ち、与え、与えられることをしていくうちに自然と社会が形成されていくのではないかというふうに考えるようになりました。それが本当に持続可能なワンネスの世界につながっていくのではないかと。
枠を超えた意識を育てるために
中西 いずれにしても人間というのは、コミュニケーションがないと生きられない生き物ですよね。問題は、それぞれ違った環境、価値観で生きてきた人たちがどう共存していくか。結局それができなくて、人類は長い年月争いが絶えなかったわけです。
コミュニティを長年、研究してきた林さんの観点から、人と人の垣根を超えて、ともに生きていける意識になるためにはどうしたらいいと思いますか?
林 難しい質問ですね。確かにその通りで、個々の違いという枠や境があることで分離感が生まれます。
先ほど話に出た鈴鹿にある「アズワンコミュニティ」ですが、仲違いして分裂するといった同じ失敗を繰り返すなかで、思いは同じでもなぜ上手くやれなくなるのか、その原因を研究するところから始まっています。そのあと「サイエンズ研究所」と「サイエンズスクール」ができて、人と人が分け隔てなく、みんなが家族のように暮らせる安心した社会を営むことのできる人を育てていく機関になっています。
具体的には、スクールではセミナーの中で常に自分を客観的に見ていく練習をします。参加するのは自由意志ですが、実際に多くの方が参加され、自分のことを知ることで相手を知るという感覚がコミュニティ全体の基盤になっていると思います。
私は、コミュニティという枠よりも、人と感覚がつながる場があることが重要なのでは、というふうに考えが切り替わりつつあります。
支え合う意識で恐怖をなくす
中西 こういう共同体で一番問題になるのが経済面ですが、アズワンコミュニティではどうでしょうか?
林 経済に対しても面白い取り組みをしています。弁当屋、不動産、農業といろいろな事業があるのですが、希望者には、給与を預けて一括調整するオフィスがあります。働いた人は毎月相談して必要な生活費をもらう仕組みになっています。自分が働いた分だけもらうわけではないので、生活と労働を切り離して考えられることができるのです。そうなるとお金に対する不安感がなくなり、安心して生活ができるようになります。
中西 それがうまく機能していけばすごくいい取り組みですね。一般社会では、Aさんは働くけどBさんは働かなくてずるいというようなことが起きます。人間の意識は非常にもろいので、そういった意識がコミュニティの中に浸透してしまったら崩壊してしまう。そういうことも認めていける意識構造だったら問題はないのですけどね。
林 私はお弁当屋さんで職場体験をさせてもらいましたが、働いていて遅れてくる人もいれば、休む人もいます。だけど誰も責める人はいませんでした。
そこでは勤務時間や勤務体制なども全て自己申告制です。どのくらいお金が必要で、どのくらい働けるかなどを全部相談して決めていました。一般社会では会社の目的は利益を上げることですが、アズワンでは人のために会社があるという考えなのです。
ルールのない中でどれだけやっていけるのかというのは、すごい試みだと思います。
中西 そうですね。結局、人間の感情の根幹というのは「不安」「心配」「恐怖」です。そこから嫉妬心が生まれて、やがて破壊につながっていきます。逆にそこが満たされていれば平和なんです。
お金に対する不安もそうですよね。アズワンコミュニティで取り組まれていることが本当に実践されれば、ひとつひとつ問題がクリアになっていくと思います。
老いや病気というのも人類が抱えた恐怖です。例えばそういうコミュニティで大病を患ったり寝たきりになっても、一人では無理だけどみんなの働きの中から「大丈夫だよ」と支え合うことができれば、医療に対する考えも全然変わってくるでしょうね。
そういう問題がひとつずつクリアになっていけば非常に素晴らしいコミュニティになっていきますよね。
林 多様性を認め合うということは言葉では簡単ですが、実際コミュニティで生活しているといろいろ問題が出てきて非常に難しいことがわかります。でも一人ひとりの個性が発揮されないと不満にもなるので、そのバランスが課題ですね。
中西 最初は静かなうねりだけど、それがやがて世の中全体に向かう流れだと信じたいし、必ずそうなると思っています。常に憎しみ合い、殺しあう社会はもう限界にきています。だから林さんの研究が実ることを心の底から期待しています。
今日はお忙しいところどうもありがとうございました。
(合掌)