不思議なおじさん中西研二の波乱万丈、涙と笑いの人生から学ぶ「人間っておもしろい」

不思議なおじさん中西研二の波乱万丈、涙と笑いの人生から学ぶ

「人間っておもしろい」

第5回
「あんたらのように理屈こねて格好がつくような甘い世界じゃないよ」の言葉が負けん気魂に火をつけた

チャレンジ大好き!セールスの世界に身を投じて

セールスの世界に身を投じて

セールスの世界に身を投じて

第4回と話は前後するが、研二は新聞記者として活躍していた時期に29歳で結婚した。相手は大学時代の2年後輩で、研二とはまったく異なる家庭環境で育った女性だった。それゆえ数々のマル秘話があるのだが、なにせマル秘なので残念ながらここでお話しできないことをご了承願いたい。そして結婚1年後に長男が誕生した。その間に第4回でお伝えした転機が訪れたのである。新聞記者から一転して、研二はフルコミッションのセールスマンへと転身した。

なぜそんな極端な転職をしたのかには訳があった。

新聞社の企画で各産業界のトップセールスマンを紹介するという話で、研二はその担当になったのだ。信じられないほどの記録を打ち立てた、名実ともにトップセールスマンのインタビューでのことだ。彼から「あんたらのように理屈をこねて記事を書けば、それで格好がつくような甘い世界じゃないんだよ。セールスはもっと生き馬の目を抜くような、鋭さと努力が必要なんだ。あんたには無理だよ。逆立ちしたって俺たちの気持ちなんて分からないよ」と徹底的に馬鹿にされたのである。

そのときの悔しさが持ち前の負けん気に火をつけた格好となり、生まれて初めて取り組んだのが、教育プログラムの販売の仕事だった。

このプログラムは研二自身も購入し、とても感動した商品であった。

内容は自己啓発プログラムで、これを世の中に広く伝えることはとても意義のあることだと思ったのだ。値段は179,000円。当時のサラリーマンの初任給が50,000円程度だったから、かなり高額商品であった。マージンは1セットで68,000円になった。つまり月に1セット売れば、何とか食べられたし、2セット以上なら十分な生活ができた。

しかし研二のやったことは、並ではなかった。何せ自己へのチャレンジが大好きな性分だったから、なんと一日1セット契約(デイリーワン)をノルマとして自分に課したのだった。一日平均4人くらいにプレゼンテーションをする中で、1人決めればいいのだからできるはずだと踏んでのスタートだった。一日1セットの契約が取れるまで、食事はとらないと心に誓って奮闘した結果、順調にデイリーワンをこなしていったが、時にはどうやっても契約が取れないことがあった。

その日は夜の9時30分過ぎになっても契約が取れず、疲れきってとある喫茶店のカウンターでボーッとセールス道具のひとつである5つのサイコロを振っていた。

するとカウンター越しにマスターが声をかけてきた。「お客さん、それ何ですか?」「しめた!チャンスだ」と心の中でにんまりした。「これですか?これはね~実は人生を豊かなものにしてくれる、魔法のサイコロなんですよ~」「え?魔法のサイコロ?へぇ~そうなんですか、ぜひお話を聞かせてくださいよ、今店閉めちゃいますから、ちょっと待っててください!」ときた。「もちろん、お待ちしますとも…」そして2時間。ありがたいことに、研二はその日もデイリーワンを達成することができた。

またこんなこともあった。夜11時を過ぎても契約が決まらない時のことである。うなだれて新橋駅前を通り過ぎようとしたら、ふと甘栗太郎の看板が目に入った。何となくそのおじさんに声をかけてみた。「オヤジさん、今夜は寒いですね~」「そうだなぁ。こんな日は早く帰って一杯やりてえんだけど、さっぱり売れねえんだよぉ」「そっか、じゃあ手伝ってあげるよ」と言って道行く人にどんどん声をかけた。「おいしい甘栗だよ~世界一うまいよ!」すると通り過ぎた人が戻ってきて買ってくれたり、みんなものめずらしそうに寄ってきて買ってくれたので、急に売れ出したのだ。「へぇ~お前うまいなぁ。その調子で頼むわ。ちょっと用を足してくるから店番しといてくれ」「いいよ。でもオヤジさん、もう終電近いから半額にしちゃおうか」「分かった。何でもいいから売っちゃってくれ」。

何とオヤジさんが戻ってきたときには、店には行列ができていた。そして甘栗は完売となった。「お前はたいしたもんだ。お礼にラーメンおごってやるよ」と一緒に食堂に入ると「ところで兄ちゃんは何の仕事をしてるんだい?」研二は思わず「しめた!その言葉を待っていた」と叫び(もちろん心で思いっきり…)小躍りするような気持ちでプレゼンテーションを始めた。

そしてこの日もデイリーワンをゲットしたのは言うまでもない。ギリギリになっても諦めない。最後の最後まで粘り、決してチャレンジを忘れない。こんな性格の持ち主だから、時にありえないようなことまでやってのけた。そんな武勇伝?はまだまだあるが、それはまた次回でご紹介させていただくのでお楽しみに。

(つづく)

2009年12月15日掲載