不思議なおじさん中西研二の波乱万丈、涙と笑いの人生から学ぶ「人間っておもしろい」

不思議なおじさん中西研二の波乱万丈、涙と笑いの人生から学ぶ

「人間っておもしろい」

第4回 ペンを捨てた男が世界一のセールスマンに!
限界にチャレンジする喜びから、桁外れの業績を残す

みんなまとめて面倒みちゃうよ!サラリーマン研二の熱い戦い

バリバリのセールスマン時代

バリバリのセールスマン時代

学生運動の挫折からやっと立ち直り、新聞記者となった研二は正義感丸出しで日々奔走していた。

そんな中、大物政治家までかかわった汚職事件を知ってしまった。デスクと相談しながら裏付けの取材を進めていた時に、企業側からもみ消しの話がきた。見逃してくれたら代わりに大金をくれると言う。事実を報道できないことに怒りを感じ「絶対記事にして社会的に糾弾してやる。安売り芸者のような真似なんかできるか!」と、人一倍正義感の強い研二はその買収をはねつけたのだった。

しかし社に上がるとデスクが話があると言う。「相手が悪すぎる。今回の話はなかったことで」と告げられた。もちろんその企業側から、全面広告が入ったのは言うまでもない。

「結局お金ですべてが解決されていく社会なら、直接収入アップできる世界のほうがいい」と記者を続ける気力が失せ、辞表を出したのだった。

次に研二が飛び込んだのはセールスの世界だった。営業の世界ではお金を儲けることが仕事だから、堂々とお金を手に入れることができると思ったからだ。ここで研二は何と世界一のトップセールスマンへと上り詰めたのだった。

しかし、あまりにもダントツの成績を上げてしまったがゆえに、目立ちすぎて周りの反感を買い、今度は会社から辞めさせられてしまった。だが捨てる神あれば、拾う神あり。某有名企業の幹部から「中西君、うちに来ないか? 君なら管理職で迎えよう」と声をかけてもらった。

研二はそんな大企業に自分が突然管理職で来たら、今まで何年もキャリアを積んできた人たちに申し訳ないとの思いから「とんでもない! ただの社員からお願いします。部署も一番業績の上がらないところでいいです。給料も最低から始めてもし自分が少しでも収益を上げることができたら、その時は考えていただければ…」と頼み込んだ。

何の役職もないペーペーから始めた研二だったが、何と1カ月で月間最多記録を達成。それに加え1カ月で4半期分(3カ月分)の売り上げ記録も超える成績を上げてしまったのだ。人と争う気はないのだが、自身の限界に挑戦することがおもしろかった。研二の売り上げグラフは他をまったく寄せ付けないほどダントツで、夢中になって最大限のことにチャレンジしていった。

ある物件を売却するのに、通常では手に入れられない公文書がどうしても必要だったときも、得意の○智恵を働かせて、何とかした。なにしろあきらめることが大嫌い。おかげでたくさん表彰され、半年で課長に昇格した。まだ20代後半だった。

課長になったチャレンジャー研二は、何と会社の各部署で問題児となっている人々を、自分の部下にしてほしいと上司に頼み込んだのだ。その問題児1号のTという社員は、9時が始業なのになぜか9時1分に来るため、毎日遅刻。2号のSは売り上げはそこそこ上げるのだが、嘘ばっかり並べ立てて売るものだから、いつもクレームの山。3号は口八丁でまくし立てるが、能書きばかりで生意気なので、嫌われ者のY。4号はお客さんの前に出ると、上がってしまってしゃべれなくなるM。5号は会社を出たら鉄砲玉で、映画や競馬に行ってしまい、焼き鳥で一杯やって赤い顔で帰ってくるA。こんな連中をトップセールスマンに仕上げるというのだ。そんな無茶を頼んだのは、自分が史上最高の業績を挙げ社内で目立つ存在になったあげく腕のいいセールスマンまで引き抜いて、他の頑張っている課長に迷惑をかけたくないという配慮からだった。

研二はこのどうしようもない部下を集めて「半年間でお前たちをトップセールスマンにする。だから俺についてきてくれ!」と宣言。Tには「毎日ぴったりと9時1分にくる根性はすごい! お前は必ずトップセールスマンになれる。明日から俺は7時半に来るからお前は8時に来い」と言い(案の定毎日8時1分に来たが、遅刻にはならなかった)、Sには「お前がお客にどんな嘘を言ったかだけは正直に教えろ」と言って彼のクレームは自分がせっせと処理をし、Aには「どこに行ってもいい。ただ行き先だけは知らせてくれ」と言って、彼らのことを責めたり怒ったりすることなく、丸ごと受け止め、ちょっとでも長所と思われるところを褒めに褒めた。そして思い切りやらせて、クロージングはすべて自分がやるというチームワークを徹底した。

研二を頭にみんな一丸となって、朝会社に着いたら屋上で体操をし、会社の全部屋とトイレ掃除、お茶の用意をし、仕事に入った。彼らの机にセールスコンテスト1位の副賞だったハワイの写真を貼り付け、「一番になったらビキニ美女だぞ~」とやる気を起こさせた。映画好きのAには「おいA、みんなで映画に行こう。何かおもしろいのを教えろ」と、仲間と遊ぶときは大いに遊び、飲みに行くときは徹底的に飲み、仕事も何でも持ち前のリーダーシップを生かし、とにかく楽しくやった。

そんなこんなの怒涛の日々だったが、何とあっという間にセールスコンテストのトップ1~5位を部下たちがゲット。6位は今まではいつもトップのセールスマンだったという前代未聞の結果だった。どうしようもないと言われていた連中が、本当にトップセールスマンになり、研二の部下になる前は首寸前だったTは、さらに半年後には課長になったのだった。

研二にとって部下は大事な仲間であり、一人ひとりが大好きだった。部下が上司に叱られても、自分が盾になり、まるで家族のように守り抜いた。

その後研二はまたもや職場を変えることになるのだが、そこではまた思いもよらない新たな試練が待ち受けていたのだった。

(つづく)

2009年11月16日掲載